農業の視点

 世界の三大穀物と呼ばれているのは、「米」「小麦」「とうもろこし」です。

穀物は植物の種子です。種子は環境変化に強く、乾燥状態に対する抵抗力を持っています。また、堅い殻に覆われており、昆虫など他の動物には消費しにくい性質を持っています。こういった性質は人間にとっても必要な時まで保存し、好きな時に加工して食べる、ひいては大量に栽培する農業を行なう上で便利な性質であり、大規模に栽培することで大量に得やすく、また貯蔵のみならず輸送の上でも便利なことから、穀物栽培の開始は人口の爆発的増加をもたらしました。こうして都市が誕生し、周辺の農地でさらに大規模な穀物栽培を行って周囲を穀倉地帯とすることで都市部の生活者が必要とする食糧を賄い、それは更に社会の分業による高度化を可能にしました。このように、穀物の大規模栽培開始は文明を生み出す重要な要素となったのです。

 日本においては、弥生時代に「米」が選ばれました。これは、夏場の温暖・湿潤な気候というだけでなく、あらゆる面で他の穀物を上回っていたからです。我々のご先祖様は立派でした。

 

 なお、世界の四大文明は乾燥地帯の畑作農業でした。これらの地域は上流域での雨季の影響で、一年の一定期間は水没した為、連作障害が少なかったようです。

 

米の利点

1.高い収穫量

  同じ面積で、「米」と「小麦」を比較すると、米の方が多く収穫できます。栄養価については一長一短

  ありますので、単純比較はできませんが、同じ栄養価とすれば、約1.5倍も米の方が優れています。

2.連作障害がない

  「米」(水稲)の栽培には、連作障害がほとんどありません。毎年同じ場所で、稲が育ち、安定収穫が

  得られます。

  家庭菜園をされている方はご存知でしょうが、「小麦」「陸稲」などの畑作物の多くは連作障害があり

  ます。同じ場所で同じ作物を栽培すると、生産量が減少してしまうのです。その原因は、

  「土壌病害」「線虫害」「生理障害」の3つがあり、数年間、栽培地を休ませる必要があります。

  この対策として、主要穀物が小麦の地域では、『輪作』が行われています。しかし輪作によって、

  「小麦」や「米」以上の高い栄養価の穀物を栽培することはできません。

3.病害虫が発生しにくい

  害虫は、土の中に卵を産みます。病原体は、土の中で繁殖します。

  水稲の場合、土の部分が水で覆われますので、土中の酸素が欠乏します。つまり、害虫や病原体を元か

  ら断つことができるのです。もちろん、それでも水稲に発生する病害虫はありますが、畑作物の小麦に

  発生する病害虫に比べれば、わずかなものです。

4.美味しい

  日本人だから言える事かもしれませんが、米は甘味に優れ、それだけで美味しく頂けます。

  『おにぎり』って美味しいですよね。

5.調理がしやすい

  「米」は脱穀すれば、あとは炊飯して美味しく頂けます。「小麦」は脱穀してから、製粉し、こねて、

  生地にして調理しなければなりません。

 

米の欠点

1.栽培に手間が掛かる

  水稲の場合、田んぼに水を張るので、土地が平坦でなければなりません。丘陵地の場合、こまごまと

  を作って区分けして、平坦地を作る必要があります。

2.水はけが悪い土地限定

  せっかく水を張っても、水はけが良いと、水は地中に消えてしまいます。水はけの悪い土地でないと

  栽培できません。扇状地などの砂やシルト質の土壌では、水稲栽培は困難です。

3.水の欠乏は命取り

  植物すべてに言えることですが、特に水稲の水欠乏は命取りです。

 

日本という、急峻な山が多く平坦地の少ない国において、水稲は不向きな穀物です。しかし、これを選択して、手間を掛けて耕地を広げた民族は、超優秀だったと言わざるを得ません。

 

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