年輪年代測定法 絶対年代がわかる

 発掘調査で出土した遺物の年代推定は、「編年」、「放射性炭素年代測定」と共に、「年輪年代測定法」という方法も用いられています。考古学的に注目度の高い遺物については、これら三つの方法を比較検討しながら、真実に近い年代を推定しています。ただし、人間のやる事ですので、やはり恣意的な年代操作と疑われる事例も多数あります。

今回は、年輪年代測定法に焦点を当て、方法や問題点について述べて行きます。

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3300年前まで測定可能

 年輪年代測定法とはその名の通り、木材の年輪の状態から年代を推定する方法です。

樹木の年輪は、気象の変化によって、幅が広くなったり狭くなったりします。その年輪成長の変化の仕方を利用して時代を特定するのです。

 樹種による変化パターンは地域差が少なく、伐採年が明確なものを基準に、その「物差し」をつくり上げることができるのです。現在、紀元前1313年まで、つまり3300年前の木材まで、正確な年代を判定できる「物差し」があるということです。

 例えば、大阪府の池上曽根遺跡の神殿のような大型建物のヒノキの柱は、紀元前52年の伐採である事が判明しています。これによって、土器による「編年」で推測されていた近畿地方の弥生時代の年代観が、100年も繰り上がるという成果につながりました。

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測定方法

 実際の年代推定の方法は、非常に単純です。例えば、現代に樹齢1200年の木を伐り出したとします。その年輪の100歳時、すなわち1100年前の年輪に個性的なパターンがあったとします。これを物差しとします。すると、1000年前の遺跡から見つかった木材の年輪に、同じような個性的なパターンがあれば、この木材が切り出された年を正確に測る事が出来る訳です。推定ではなく、精密な年代です。

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年代の物差し

 個性的なパターンは、必ず存在します。それは、温帯・寒帯など気候の年周期性が明瞭な地域に生育する樹木は一年ごとに年輪を形成しますが、年輪の成長量は気候などの環境要因によって大きく影響されるからです。

 同じ地域・時代に成長した木々であれば、刻まれた年輪パターンも類似したものとなるため、異なる樹木間でも年輪パターンを一対一で対応させることができます。年輪幅や密度など木々に共通の年輪パターンの変化をデータ化して「物差し」となる標準年輪を決定します。様々な時代の樹木試料について共通する部分を手がかりに年輪曲線をつなぎ合わせていくことによって、現代から遠い過去に遡って年輪の変化パターンを得ることができ、3300年もの物差しとなるのです。

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放射性炭素年代測定へのフィードバック

 年輪年代測定法の最も優れた点は、樹木の年代を年単位で正確に決定できることです。

前回までに紹介しました科学的手法である放射性炭素年代測定では、求められる年代は必然的に数十年から数百年の統計的な誤差が含まれてしまいます。年輪年代測定法を併用することによって、より正確な年代の決定が可能となる訳です。また近年は、年代がわかっている樹木年輪を用いて、大気中の炭素14の濃度を測定することで、放射性炭素年代測定法の誤差の校正にも役立っています。

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問題点

 問題点としては、決定される年代はあくまで樹木自体の年代であり、必ずしも、建築物や木造品が製作されたり使用された年代を決定するものではない、という事です。枯死して時間が経過してから使用されたものや、別の用途から再利用されたものでは時代がさらに古くなりますし、補修のために追加されたものや、表面を削ったものは、考古学的な推定とは異なる結果が導き出されることに注意が必要です。これは年輪年代測定法だけではなく、他の測定法にも共通の問題です。

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法隆寺問題

 実際にこの問題点が大きな議論を巻き起こした事例があります。それは、法隆寺の建造時期です。

2001年に、年輪年代測定法によって法隆寺の五重塔心柱は594年伐採と発表されましたが、『日本書紀』の記録で法隆寺は670年に全焼、7世紀末~8世紀はじめ頃に再建されたとされています。

 年輪年代測定法の結果と、古文書の記述に100年のずれがあったという事です。

 この議論はうやむやなままに、100年前の古い木材を再利用した、という苦しい説明で終結しています。

五重塔などの心柱は建築構造上もっとも重要で、100年前の古材を使用するなど考えられない、という反対意見が現在も燻っています。

 ちなみに私は年輪年代測定法を信じます。日本書紀の記述を否定します。

一般の古代史研究家は、とかく文献を重視しますが、自然科学の前にはいかなる古文書も無力だと思います。

 発掘調査からの出土品の年代推定手法として、「編年」「放射性炭素法」「年輪年代法」の利点と問題点をあげてきました。それぞれの良い点が他の悪い点を補完しながら、精度の高いものになってきています。

まだまだ不十分ではありますが、自然科学を用いた考古学的な年代推定の成果は、文献史学的な「嘘」をどんどん暴いてくれる事でしょう。

 古代史の優先順位は、自然科学、考古学、文献史学、・・・ずっと下に神社伝承、です。