古墳が土俵 ミュオ開発競争

 前回は、宇宙から降り注ぐ素粒子ミュオンを利用した非破壊内部撮影(ミュオグラフィー)の原理でした。

理系の私にとってはワクワクする内容だと思っていたのですが、文系の皆様にとっては無意味な屁理屈だったようです。

退屈させてすみません。

 今回は、実際にミュオグラフィーが使われている事例と、2020年時点で現在進行形の古墳のミュオグラフィーが行われている場所を紹介します。

  そこには、単なる最先端技術の実験という「きれいごと」だけではなく、実用化へ向けての二つの研究機関の競争が見えてきます。

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歴史

 東京大学では、浅間山や、薩摩硫黄島硫黄岳の透視画像の撮影を行っています。

一方、名古屋大学では、昭和新山の透視画像の撮影や、東京電力福島第一原子力発電所2号機のメルトダウンした原子炉内部の透視画像の撮影を行っています。また古墳では、奈良県斑鳩市の春日古墳の透視を行い、石室の発見という成果を上げています。

 ミュオグラフィーの装置は、それぞれが民間企業などと協力しながら独自のものを開発しています。

東京大学は、ハンガリー科学アカデミー・ウィグナー物理学研究センター、NECとの三者による共同開発。

名古屋大学は、東芝との共同開発を行っています。 

 これらのミュオグラフィー技術を用いて、古墳の透視画像撮影が始まっています。

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東京大学と名古屋大学

 古墳の透視画像撮影の実験地は、奈良県桜井市の箸墓古墳と、大阪府高槻市の今城塚古墳です。

箸墓古墳は、三世紀頃の前方後円墳で、卑弥呼の墓の候補地です。ここは、名古屋大学と橿原(かしはら)考古学研究所とが共同して、2020年1月にミュオグラフィーの撮影を開始しました。

一方、今城塚古墳は、六世紀前半の前方後円墳で、越前の大王・継体天皇の陵墓とされている古墳です。

ここもまた2020年1月という同じ時期に撮影が開始されました。こちらは、関西大学と高槻市との共同研究で、装置は東京大学のものを使っています。

 どうやら東京大学と名古屋大学との競争になっているようですね。

また奇しくも、どちらの古墳も私の邪馬台国・越前説と関係する古墳です。

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宮内庁指定陵墓

 箸墓古墳は、よく知られているように、最大の弥生集落である纏向遺跡の中に存在しており、卑弥呼の墓だと主張する古代史研究家の多い場所です。全長約280メートルの前方後円墳で、三世紀という最古級のものです。残念なことに、ここは、宮内庁が陵墓として管理している為に容易に発掘調査ができない場所です。これまでも何度か研究者達からの要望に応じて立ち入りを認めてはいるものの、調査範囲は極端に制限されていました。

 そこで、ミュオグラフィー技術を用いて、古墳を破壊することなく内部を撮影するに至りました。この結果は、2020年中に発表される予定です。実験装置は、名古屋大学と東芝の共同開発によるものです。

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継体天皇の陵墓

 一方、今城塚古墳は、越前の大王・継体天皇の陵墓とされる場所です。全長約180メートルの前方後円墳で、六世紀前半とされています。淀川流域では最大規模の古墳です。

 継体天皇の陵墓としては、宮内庁は大阪府茨木市の太田茶臼山古墳と指定しています。今城塚古墳のすぐ近くです。

ところがこれは、築造年代が継体天皇の時代よりも一世紀も古い事が分かり、現在では完全に否定されています。これはある意味ラッキーでした。太田茶臼山古墳は、天皇家の陵墓の認定が継続されていますので、厳しい発掘制限を受けていますが、この今城塚古墳はそれがなかった為に、大規模な発掘調査が行われているのです。そのおかげで、ここからは、継体天皇の権力の強さを物語る様々な出土品が見つかりました。

 ただし、大がかりな発掘が行われたからと言って、古墳の内部を安易に破壊するわけにはいきません。高槻市では、科学研究教育国際プロジェクト、古墳ミュオグラフィープロジェクトの依頼を受けて、関西大学と共に内部構造等を究明する取組みを行っています。実験装置は、東京大学、ハンガリー科学アカデミー・ウィグナー研究所、およびNECとの三者によって共同開発されたものです。

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今城塚古墳のミュオ装置

 今城塚古墳でのミュオグラフィー装置が設置されている様子は公開されています。

これらの写真です。

 今城塚古墳は、大阪府高槻市が全面的にバックアップしており、古墳公園として非常によく整備されています。また、出土品が展示された資料館もあります。

ミュオグラフィ―の装置は、当然ながら屋外に設置されていますので、近くで見る事が出来ますが、むやみに手を触れないで下さい。なお、2020年中には観測が終了しますので、それ以降は撤去されてしまいます。興味のある方はお早めに。

 箸墓古墳、今城塚古墳とも、ミュオグラフィーの画像結果が出るのは2020年末ころとされています。

古代のお墓の内部がどのようになっているのか、ワクワクしますね。

ちなみに、装置の価格は、500万円程度から最新鋭のもので8,000万円くらいだそうです。まだまだお手軽に古墳のレントゲン撮影とは行きませんが、巨大建造物の内部撮影という需要は、古墳だけでなく、原子炉、火山など、多岐にわたりますので、今後一気に値段が下がっていくのではないでしょうか。

現在、最も期待できる最先端技術です。