邪馬台国と越前がに

 蟹の王様といえば「越前がに」です。高級料亭だけでしか食べる事の出来ない蟹なので、貧乏人の私には無縁の食材です。

 実は恥ずかしながら、「越前がに」という種類の蟹が存在していると、最近まで思っていました。

「越前がに」とは、越前海岸沖で取れるズワイガニのオスの事だそうです。

 なお、山陰沖で取れるズワイガニを「松葉がに」、加賀・能登沖で取れるズワイガニを「加能がに」と呼ぶそうです。同じズワイガニでも名前だけで、格差を感じてしまいますね。

 今回は、この「越前がに」が「邪馬台国」と若干の因果関係がありますので、ご紹介します。

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ズワイガニの生息地
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蟹のブランド化

 ズワイガニの分布は、日本海一帯や、東北地方の太平洋からカナダ沖、オホーツク海、ベーリング海などに広く分布しています。

 水揚げが多いのは山陰地方と北陸地方で、資源保護の為に冬の一定期間だけしか漁が行われないそうです。

 では、なぜ越前海岸沖で取れる「越前がに」だけが蟹の王様と呼ばれるのでしょうか。山陰地方で獲れる「松葉がに」よりもワンランク上のイメージがあります。

 それは、同じズワイガニでも、巨大で見栄えが良いので高級感がある上に、身が引き締まっているので、超美味しいからです。

 なお、加賀沖・能登沖で取れる蟹も、実際は同じ場所で取れる蟹なのですが、「越前がに」と呼んではいけないそうです。福井県で獲れるズワイガニだけが「越前がに」と呼んでもいいそうです。これは、「ブランド化」という大人の事情が絡んでいるからです。

まあ、石川県の方は加賀百万石が超有名ですので、この辺は我慢していいでしょう。

 さて、この巨大ズワイガニである「越前がに」と、邪馬台国が越前に出現した理由が、僅かながら因果関係があるのです。

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越前がにの餌

 巨大ズワイガニがこの海域に生息しているのは、「餌」がポイントです。同じズワイガニでも、山陰地方の海域とは少々異なる事情があるのです。

 海底に棲んでいるズワイガニは、その周辺に生きている貝類のほかに、上を泳いでいる魚介類の屍骸も餌にしています。

 この「上を泳いでいる魚介類の屍骸」の差が、「越前がに」と他の地域のズワイガニとの間に格差を生んでいるのです。

 その餌とは、巨大クラゲ、いわゆる「エチゼンクラゲ」です。その名の通り、越前海岸沖で超巨大化してその生涯を終えるクラゲです。

 「越前がに」は、この「エチゼンクラゲ」の死骸をたらふく食べて巨大化し、そして蟹の王様として高級料亭のテーブルに乗って来る、という流れです。

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エチゼンクラゲは対馬海流に乗ってやって来る

 「越前がに」と「邪馬台国」の因果関係は、一言でいえば「対馬海流の作用」です。

「越前がに」の餌になる「エチゼンクラゲ」は、そもそも、本来の繁殖地は中国の黄海や渤海で、ここから個体群の一部が、対馬海流に乗って日本海にも流れ込んで来るのです。日本海に豊富にある小型の動物性プランクトンを餌として巨大化して、対馬海流がぶつかる越前海岸沖でその生涯を終えます。この海底でよだれを垂らして待っているのが「越前がに」という訳です。

 一方、邪馬台国が越前に出現したのも「対馬海流の作用」です。

 越前・福井平野は、縄文海進時に北部が対馬海流によって砂礫層を形成し、その後、巨大淡水湖となり、弥生時代には巨大沖積平野へと変貌しました。

 これは、天然の水田稲作に最適な土地で、その当時では日本最大の穀倉地帯となり、必然的に一極集中型の超大国が出現する事になりました。

 また、邪馬台国の港町・三国には、対馬海流が吸い込まれるようにぶつかってきますので、中国大陸や朝鮮半島からの文物が、黙っていても入り込んで来る場所である事が分かります。

 「越前がに」と「邪馬台国」。ちょっと微妙な因果関係ではありますが、「対馬海流」という自然の摂理がもたらした、「蟹の王様」と「弥生時代の超大国」と言えるかも知れません。

 今回の「越前がに」が巨大化する理由が、「エチゼンクラゲが餌である」とするのは一説に過ぎません。ただなんとなく、もっともらしいので、よもやま話として取り上げました。

 邪馬台国の港町・三国の高級料亭では、お一人様五万円の「越前がにフルコース」があるそうです。

 死ぬまでに一度でいいから、頂いてみたいものですね。遠く中国・朝鮮からぶつかって来る対馬海流を眺めながら、邪馬台国に思いを馳せ、蟹の王様・越前がにを食する・・・憧れます。

 次回は、よもやま話の第二弾として、対馬海流が引き起こした様々な作用を紹介します。